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第59回全国建設業労働災害防止大会in金沢(建災防)が開催
建設業労働災害防止協会(会長:今井雅則)が主催する「第59回全国建設業労働災害防止大会in金沢」が10月6日〜7日、石川県金沢市のいしかわ総合スポーツセンター、石川県立音楽堂、ANAクラウンプラザホテル金沢で「高めよう 一人ひとりの安全意識 みんなで目指そう リスクの低減」の大会スローガンの下に開催された。
今年度の大会は現地開催とオンライン配信を組み合わせたハイブリッド方式を導入。総合集会(10月6日)、専門部会(10月7日)の2部構成で行われた。
大会初日の6日、金沢市のいしかわ総合スポーツセンター(メインアリーナ)で開かれた総合集会では、冒頭挨拶で今井雅則建災防会長が「現場管理者および技能労働者不足、作業人事者の高齢化などにより、労働災害増加の懸念はますます高くなっている」とした上で、労働災害防止に向けた関係者一丸での取り組みを要請。大会の開催を契機に「労働災害防止活動の大切さを再確認し、心新たにゼロ災害達成へ尽力することを誓う」と力を込めた。
来賓挨拶では、加藤勝信厚生労働大臣、斉藤鉄夫国土交通大臣、馳浩石川県知事、村山卓金沢市長の祝辞が代読された。「大会を通じて共有される労働安全衛生対策や相互交流が有意義となることを期待する」(加藤厚労大臣)、「労働災害の撲滅や働き方改革の実現のために建設業界の引き続きの尽力が不可欠」(斉藤国交大臣)、「大会開催の成果を基に安全管理体制の更なる充実に努めていただきたい」(馳石川県知事)、「大会参加者の活発な議論が建設現場での安全対策をはじめとする今後の取り組みに反映されることを期待する」など、労働災害撲滅に向けた一層の取り組みに期待するメッセージが寄せられた。
2日目(10月7日)は、専門部会の最新の活動成果の報告が石川県立音楽堂、ANAクラウンプラザホテル金沢、金沢市アートホールの各会場で行われた。建築、土木、安全衛生教育、低層住宅、ICT、メンタルヘルス、コスモスの7部会による研究発表数は合計52プログラム。ゼネコン本店・支店の安全衛生管理活動、仮設レンタル企業やハウスメーカーによる安全管理の先駆的な取り組みなどが発表された。
総合集会
冒頭挨拶 今井雅則建災防会長
「昨今の建設業を取り巻く社会的情勢は、新型コロナウイルスが未だに収束せず、われわれの社会活動や生活そのものが大きく変化していることが挙げられる。その中で建設作業所においては感染防止対策を徹底するとともに、働き方改革やウィズコロナ社会に対応しようとしている。また、地球温暖化に伴う台風の大型化、線状降水帯による局地的豪雨などによる自然災害が頻繁に発生し、各地に大きな被害をもたらしている。被災地域での迅速な道路の啓開や復旧復興工事、あるいは防災減災のための工事やライフラインの点検整備など、われわれ建設業が担う役割は一層重要なものとなっている。
その一方で、現場管理者および技能労働者不足や作業人事者の高齢化などにより、労働災害増加の懸念はますます高くなっている。実際に、死亡災害に占める60歳以上の割合は38%と増加傾向にある。さらに、建設業における時間外労働の上限規制適用猶予期間の終了が2年後に迫る中、次世代の担い手を確保するために週休2日制の導入や働き方改革を推進するとともに、安全で安心して働くことのできる職場環境の形成を一層進める必要がある。
このような状況の中、令和3年の建設業における死亡災害は前年比30人増の288人、休業4日以上の死傷者数についても前年比1,102人増の1万6,079人と大幅に増加している。死亡災害の発生状況は、屋根・はしご・足場等起因とする墜落転落災害が38%と最も高い比率となっており、また全産業に占める建設業の死亡災害の割合は33%と依然高止まりの状況が続いている。建災防の存在意義が問われているという強い危機感をもっている。
建災防が平成30年度に策定した第8次建設業労働災害防止5か年計画が本年最終年度を迎える。建設業における死亡災害および墜落転落災害の前期5か年計画の平均発生件数に対して15%以上減少させるという目標を達成するためにも、関係者が一丸となって労働災害防止に尽力いただけるようお願いしたい。
労働災害防止対策を進める基本姿勢は、各種の安全衛生手法の導入や安全衛生教育の実施に加え、日々の安全衛生活動の中で建設作業所ごとに危険の源(みなもと)をチェックするとともに、フェイストゥフェイスで労働者の健康状況を把握するなど、労働災害発生要因の排除を妥協なく繰り返し行うことによって、働く人々の安全と健康は確保できるものと考えている。
建災防においては、労働災害を減少させるための具体的な手法として、労働環境の変化に対応するとともに国際基準との整合を図った建設業労働衛生マネジメントシステムニューコスモス導入をひろく展開している。あわせて、中小規模の建設事業者が取り組みやすいように運用方法を簡便化したコンパクトコスモスの推進を図っている。
また、建設作業所の特性を踏まえた建災防方式健康KYと無記名ストレスチェックによるストレス状況の把握および職場環境改善の推進、ヒューマンファクターの背後要因やレジリエンス能力に着目した新たな安全衛生活動である新ヒヤリハット報告の普及、建築物石綿含有建材調査者講習、フルハーネス型安全帯使用作業特別教育など各種安全衛生教育にも積極的に取り組んでいる。
大会において、会員をはじめ多くの関係者が一堂に会し、労働災害防止活動の大切さを再確認し、心新たにゼロ災害達成へ尽力することを誓うとともに、最新の安全衛生情報や安全衛生管理ノウハウに触れることが、安全衛生意識の高揚を図る上で極めて効果的であると考えている。
来賓挨拶 加藤勝信厚生労働大臣(メッセージ代読:美濃芳郎厚労省労働基準局安全衛生部長)
令和2年の墜落転落による死亡者は95人と安衛法施行以来初めて100人を下回ったが、令和3年は一転して増加し、110人の命が失われている。労働災害は決してあってはならないものであり、今もなお労働災害により多くの人命が失われている事実をわれわれは重く受け止めなければならない。
今年度が最終年度となる第13次労働災害防止計画では、死亡災害の多数を占めている墜落転落災害の防止対策をその目標達成に向けた重点項目として位置付けている。厚生労働省では、足場における墜落防止措置や高所作業におけるフルハーネス型の墜落制止用器具使用の更なる徹底などの労働災害防止対策に取り組んでいる。さらに現在、墜落転落災害防止対策の充実強化に向けた検討を進めており、今後関係法令やガイドラインの見直し等を行う。
今回大会のスローガンは、「高めよう 一人ひとりの安全意識 みんなで目指そう リスクの低減」とうかがっている。働く方々の高齢化や担い手不足、働き方改革への対応など、建設業が直面する課題は多岐にわたる。このような状況においても安全が疎かになることがないよう、関係者各人が小さな危機を見逃さないという意識を持って対策に取り組むことが労働災害撲滅への確実な一歩につながると確信している。
大会を通じて共有される労働安全衛生の対策や相互の交流が有意義となることを期待する。
来賓挨拶 斉藤鉄夫国土交通大臣(メッセージ代読:増田博行大臣官房審議官事務次官)
「国民生活、社会経済の基盤を担う建設業が持続的・安定的に発展していくためには、建設業に携わる方々が安全・安心に働けることが重要だ。国土交通省としては、建設業従事者の安全と健康を確保するための取り組みを推進していく。地域の守り手である建設業発展のためには将来における担い手確保も重要課題だ、とりわけ、処遇改善や働き方改革、生産性向上をより一層進めていかなければならない。安定的かつ持続的な公共投資の確保を図るとともに、建設業が給与がよく休暇が取れ希望が持てるいわゆる新3Kを満たす魅力的な産業となるよう、必要な施策に取り組む。
処遇改善については、10年連続の公共工事設計労務単価引き上げによる適切な賃金水準の確保や社会保険への加入徹底を図るとともに、建設キャリアアップシステム(CCUS)の普及活用など、技能者の賃金引上げを促すための取り組みも進めていく。働き方改革については、新担い手3法を踏まえ、適正工期による契約や施工時期の平準化に向けた取組みを推進するとともに、更なる生産性向上に向けてICT等を活用したi-constructionや建設業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進していく。
労働災害の撲滅や働き方改革の実現のためには、業界の引き続きの尽力が不可欠だ。また、新型コロナウイルス感染症対策と経済再生の両立など、様々な課題に取り組むにあたっても建設業界は大きな一翼を担っている。引き続き力添えをお願いしたい。
来来賓挨拶 馳浩石川県知事(メッセージ代読:徳田博石川県副知事)
「大会開催の成果を基に安全管理体制の更なる充実に努めていただくことを期待している。災害からの復旧、地域発展の礎となるインフラ整備には建設業の力が不可欠である。安全な職場環境の整備はもとより担い手の確保、生産性の向上、働き方改革にも取り組んでいく必要がある。効率的で安全な施工に向けて、石川県発祥の建設機械メーカーであるコマツと連携し、公共工事でのICT建機の積極的な活用を進めているところだ。今年度からは、災害復旧を除く全ての工事週休2日制の実施に取り組むなど、建設業界と共に職場環境の向上を図っている。建災防の発展と大会参加者の健勝を祈念申し上げる」
来賓挨拶 村山卓金沢市長(メッセージ代読:相川一郎金沢市副市長)
「労働災害のない安全な職場環境の整備を目指すため、建災防が果たす役割はさらに重要になる。建設業従事者の健康を確保するため、労働環境を改善する働き方改革の推進に取り組むことも不可欠だ。市では週休2日モデル工事や余裕期間モデル工事等の環境整備を図っており、今後も様々な働き方改革の施策を推進したいと考えている。
大会参加者の活発な議論が建設現場での安全対策をはじめとする今後の取り組みに反映されることを期待している」
専門部会
2日目(10月7日)は、専門部会の最新の活動成果の報告が石川県立音楽堂、ANAクラウンプラザホテル金沢、金沢市アートホールの各会場で行われた。建築、土木、安全衛生教育、低層住宅、ICT、メンタルヘルス、コスモスの7部会による研究発表数は合計52プログラム。ゼネコン本店・支店の安全衛生管理活動、仮設レンタル企業やハウスメーカーによる安全管理の先駆的な取り組みなどが発表された。
建築部会(研究発表数:14プログラム)
会員会社の建築施工現場(事務所ビル解体工事、駅舎大規模改修、超高層マンション工事等)における安全性向上や作業環境改善の工夫、第三者災害防止のための現場運営、安全性・生産性と工期短縮を両立させる仮設計画の取り組みなど、計14プログラムの研究発表が行われた。
熊谷組北陸支店(発表者:河村隆彰建築部金沢武蔵南作業所所長)の研究発表「墜落災害の防止に準拠した工法選定及び各課題について~無足場工法と梁鉄筋先組み工法の採用及び各種課題への取組〜」では、建設業で死亡・死傷災害が最も多い墜落災害の防止を最優先する観点から無足場工法と梁鉄筋の先組み工法の採用にアプローチ。各作業に伴う課題と対策を報告。
土木部会(研究発表数:13プログラム)
会員会社の土木施工現場(山岳トンネル工事、シールド施工、高速道路リニューアル等)における安全対策、安全衛生管理活動の取り組みなど計13プログラムの研究発表が行われた。
鹿島建設東北支店(発表者:上本勝広成瀬ダム堤体打設JV工事事務所工事第2グループ長)の研究発表「人の重機の混在作業を防ぐための改善事例〜死亡災害に直結する重機災害の撲滅〜」では、台形CSGダム型式の施工現場(成瀬ダム)の堤体打設における重機災害撲滅と死亡災害ゼロをスローガンとした取り組みを紹介。同報告は自動化施工の進展に伴う「人と重機が混在した作業現場状況」に着目した先駆的な安全対策の事例報告となる。
安全衛生教育部会(研究発表数:13プログラム)
施工現場での安全管理チェック体制構築、ゼネコンと協力会社の連携による安全衛生強化、デジタル技術を駆使した現場作業所でのヒューマンエラー防止教育、外国人建設就労者の活用による安全な現場運営の取り組みなど、計13プログラムの研究発表が行われた。
アキタ建設(発表者:チュン・バン・キイ氏)の研究発表「外国人建設就労者の「完全戦力化」に向けた専門工事業者のチャレンジ〜外国人技能実習生・高度人災の採用・育成の留意点〜」では、海外の建設系大学を修了した「高度人材」を建設技術者として採用・育成する取り組みを紹介。数年間のキャリアで大手ゼネコンの工事に従事するスキル・経験を習得した「高度人材」と外国人技能実習生の緊密な連携を図ることで、より安全・円滑な現場運営を実現した報告事例となっている。
低層住宅部会(研究発表:13プログラム)
元請の施工管理者である現場代理人が現場常駐を要しない「非専任現場」の安全管理DX化、IT技術を活用した熱中症対策、足場工事での墜落・転落災害防止に向けた対策など、計13プログラムの研究発表が行われた。
ダイサン(発表者:和田誠安全管理部部長)の研究発表「住宅足場工事業を持続するために」では、若手技能職の減少に歯止めが効かない状況下、教育アカデミー、作業軽減の為のCAD作図、技能実習生の現地教育、足場甲子園の実施、IT技術者の活用、技術職の社員化などの取り組みを報告。あわせて、自社単独では打開策を見出すことが難しい現場環境の改善、天候等を考慮した猶予ある納期、安定した収入や将来性など、業界として変革が求められる諸課題を展望した。
ICT部会(研究発表:12プログラム)
作業間調整システムや各種3DデータへのICT技術やAI技術の導入による省人化・生産性向上の事例、webカメラやデジタル技術を駆使した現場搬出入車輛の運行管理による「見える化・音声化」による安全管理対策の事例など、計12プログラムの研究発表が行われた。
大成建設(発表者:佐々木俊伸逢初川災害対策工事作業所長)の研究発表「被災地におけるデジタルツインを活用した安全管理〜令和3年度逢初川水系応急対策工事〜」では、逢初川災害対策工事でのデジタルツインを活用した取り組みを紹介。同工事現場では、スマートフォンやタブレット等から工事全体をリアルタイムに把握できる現場管理システム「T-iDigital Field」を安全管理に導入。通常の安全管理にも幅広く活用できる「カメラビューアプリ」、リアルタイムに作業時の位置や稼働状況のデジタルツインを形成できる「重機・人等位置管理アプリ」を使用。安全意識の向上を狙いとした避難訓練も実施した。
メンタルヘルス部会(研究発表:12プログラム)
建災防がメンタルヘルス対策と職場環境改善対策として普及を進めている「建災防方式健康KYと無記名ストレスチェック」の活用事例など、計12プログラムの研究発表が行われた。
建災防山梨県支部(発表者:山本憲一部長)の研究発表「新ヒヤリハット報告を活用した新たな視点による山梨県支部の取り組み〜ヒューマンエラーによる災害を防ぐグッドリカバリー健康KYの展開〜」では、建災防本部検討委が今春とりまとめた新ヒヤリハット報告に基づく取り組みを紹介。同支部では、人的要因(作業負荷、心身状態、コミュニケーション能力、レジリエンス能力等)に着目した労働災害防止対策として、新ヒヤリハット活用マニュアルによる県内データ集積・分析を反映させた「グッドリカバリー健康KY活動」を試行している。
コスモス部会(研究発表:7プログラム))
建災防が更新・認定を行っている建設事業場を対象とする建設業安全衛生マネジメントシステム(コスモス(COHSMS))の取り組み事例など計7プログラムの研究発表が行われた。
東急建設安全環境本部安全部(発表者:長田貴則氏)の研究発表「安全衛生水準向上の意識改革を目的としたシステム教育の取組〜平面的なPDCAサイクルから立体的なCAPDサイクルへのスパイラルアップへ〜」では、コスモス認定取得から10年が経過し、安全衛生管理体制が浸透・定着す一方で懸念される「システム形骸化」に焦点を当てた。その防止対策となる「システム監査評価者の能力強化」と「システム教育強化」の実施内容を報告。
大会のオンライン視聴はオンデマンド配信で視聴可能
オンデマンド配信の視聴期間は、
◎総合集会式典(10月11日〜11月14日)
◎総合集会講演(講師・精神科医名越康文氏)(10月11日〜10月24日)
◎専門部会研究発表等(10月11日〜11月14日)となっている。
オンライン視聴の詳細は下記サイトを参照。
https://www.kensaibou.or.jp/zenkokutaikai/reservation/mail_registration.html