|特集| 既存建機後付装置

汎用建設機械の遠隔操縦を実現する「KanaRobo」やその進化版など、カナモトが「後付け装置」を続々開発

 建設業界は約60兆円規模の巨大市場だが、労働人口の高齢化や過酷な労働環境ゆえの人手不足など深刻な課題も抱えている。この状況の打開策として期待が高まっているのが、省人化・効率化などを目的とする建機の遠隔操縦である。こうした“時代の声”に応えるように、株式会社カナモト(本社:北海道札幌市中央区、代表取締役社長兼営業統括本部長:金本哲男氏、以下、カナモト)は、これまで遠隔操縦に関するさまざまな「後付け装置」を開発してきた。その代表格が汎用建設機械の遠隔操縦人型ロボット「KanaRobo」だ。  
 KanaRoboは建機を操縦できる双腕双脚の人型ロボットである。建機の運転席にロボット本体を設置し、オペレーターは離れた場所に設置したコントローラで、KanaRoboからの映像を見ながら遠隔操縦する。特別な道具を使うことなく設置でき、設置は約1時間、撤去は約30分と、短時間で建機の遠隔操縦化が可能となっている。  
 カナモトではKanaRoboやその進化版である「KanaTouch」といった遠隔操縦システムのほか、安全対策用も含むさまざまな後付け装置を開発している。そのアイデアの源泉や開発方針などについて、同社の営業統括本部 ニュープロダクツ室の吉田道信氏に話を伺った。

現場の「声」に応えて重ねるバージョンアップ

「KanaRobo」の開発経緯を教えてください。

ご存知のとおり現在、日本の社会インフラは老朽化が進行し、災害リスクも高まっています。以前からインフラの整備と維持管理において、迅速性・効率性の向上やコスト縮減を実現できる「技術」を模索していました。そんな折、特殊土木作業を専門とする株式会社富士建(佐賀県佐賀市)の角和樹専務から、建機を遠隔操縦するロボットの共同開発の話をいただいたのです。実際に開発中のロボットを視察したところとても興味をひかれ、共同開発を進めることに決めました。それが2014年ごろだったでしょうか。
まず「災害復旧ロボット」という位置づけから開発を始めました。自然災害の復旧現場などの危険区域で、人に代わって重機作業を行うロボットとして開発を進めましたが、現在は一般的な工事現場にも対応するなど、導入対象の幅は広がっています。

コントローラの種類も増えているようですが?

もともとは卓上のプロポ型や実機のコックピットをベースにしたコントローラを提供していましたが、現場から掘削の感覚や衝撃を感じられるコントローラが欲しいという要望が寄せられるようになり、新たに「体感型コントローラ」を追加しました。建機に取り付けた3軸ジャイロセンサーからの信号を受け取り、建機の傾きや振動を再現することで、より臨場感のある遠隔操縦ができるようになっています。

「低遅延操作」を実現する通信システム

「KanaRobo」を装着できるのはバックホーだけですか?

いいえ、バックホーのほか、ホイールローダーやブルドーザーなどの汎用建設機械に後付け可能で、メーカーも問いません。国内はもちろん、CATやVOLVOなどの海外メーカーにも対応しています。
汎用性では実績があり、KanaRoboの進化版ともいえる「KanaTouch」はさまざまな建機に装着できることが実証されています。これはロボット型ではなく、建機のハンドルやペダルなどの機構ごとに取り付けるアタッチメント式で、セットアップがより簡単です。実際にトンネル内でホイールローダーの走行やバケット操作などを遠隔操縦する「Tunnel RemOS-WL」という当社製品に応用されています。

通信システムはなにを採用されているのですか?

以前は特定小電力無線を使っていましたが、いまはLTE(移動通信網)などの公衆回線にも対応しています。また、当社が開発したUDP通信の「KCL(Kanamoto Creative Line)」という通信システムも採用しており、セキュリティ強化と低遅延の操作を可能にしています。低遅延でいえば、当社はローカル5Gの実験試験局免許を取得していますから、移動基地局を設置すれば現場に「ローカル5G環境」を構築できますし、さらにソフトバンクと共同で5G活用による商用サービスを見据えた、さまざまな実証実験を行っています。

未知なる技術を求めて、探る実現性

ほかにも「後付け装置」はありますか?

遠隔操縦であれば、タワークレーン用の「TawaRemo」があります。KanaRoboなどと同様の遠隔操作システムで、最大50mもの高所にある運転席に昇降しなければならないオペレーターの負担軽減や作業環境の改善を目的に開発しました。
安全装置では、建機と人の接触防止システム「ナクシデント」の展開を強化しています。センサー範囲内に人を検知すると建機を停止させる装置で、AI活用のカメラで人だけをほぼ100%検知するのが最大の特長です。これの新バージョン「ナクシデントLight」やクレーンバージョン「AIスコープ」もあります。また、重機でもシートベルトを着用すべきという機運が高まっているため、着脱によって運転/停止する後付け装置も開発しました

最後に今後の開発の展望について教えてください。

興味があるのは自動運転です。「省人化」の面では、現在の1人対1機の遠隔操縦では限界があり、1人対3機くらいまで進化させる必要があります。これはひとつの開発目標になりますが、自動運転は省人化、さらには「無人化」を実現する技術です。バックホーを例にすれば、掘削中に水道管が出てきたら作業を停止しなければなりませんが、単純な自動運転では掘り続けてしまうでしょう。だから「自律型」である必要がありますし、さらに安全面を考慮すれば「協調型」であることも不可欠です。かなりハードルが高く、実現性は未知数ですが、いつかできればと日々アイデアを探しています。


  • ニュープロダクツ室の吉田道信氏

建設機械遠隔操縦人型ロボット「KanaRobo」
死角を視界に変える接触防止システム「ナクシデント」