|特集| 無人化施工
既存事業で培ってきた多方面のノウハウをいかし、
マクニカがトータルサポートする建機の自動運転化
少子高齢化が進み、労働人口が減少している日本において、人材確保はあらゆる業界で課題となっている。なかでも建設業界の人手不足は深刻で、事業継承や技術継承といった課題も顕在化している。こうした状況下、打開策として注目されているのが建設機械の自動運転である。建機メーカーをはじめとする業界各社が注力する分野だが、なかでも一歩先をリードするのが、株式会社マクニカ(本社:横浜市港北区、代表取締役社長:原
一将氏、以下、マクニカ)だ。
半導体やネットワーク関連機器などを企画開発、販売する技術商社であるマクニカは近年、自動運転などスマートモビリティ分野に注力してきた。この領域で培ってきたノウハウを活用し、建機の自動運転化をサポートしている。
マクニカ イノベーション戦略事業本部スマートモビリティ事業部 課長の竹内崇道氏(以下、竹内氏)と同部
主幹の飯村亮氏(以下、飯村氏)に、建機分野へ進出した背景を起点に、同社のサポート領域や今後の展望などについて話を伺った。
※本稿に掲載した画像・図表・動画はすべてマクニカ提供
ハード・ソフト両面で支援可能な技術ネットワーク
建設機械の自動運転化に取り組み始めた背景を教えてください。
竹内氏:もともと当社はOEM(完成車メーカー)やティア1(1次サプライヤー)のほか、MaaS関連企業の支援事業を展開し、自動車の自動運転化に注力してきました。また、私はLiDAR※1などセンサー関連の仕事を担当してきたのですが、さまざまな顧客と接するなかで建設業界における自動運転化のニーズの高まりを肌で感じるようになっていました。実際に建設業界からの引き合いが増加してきたため、きちんとフォーカスしてニーズに応えたいと考えたのが建機分野に進出した経緯です。
自動車から建機への移行はスムーズだったのでしょうか?
竹内氏:ハード面では、LiDARなどセンサー関連の実績もありますし、自動車の自動運転化の経験をいかすことができるためスムーズに移行できたと思います。ただ、建機は車輪の代わりにキャタピラがついていたり、油圧式のアームがあったりと、一般的な自動車とは大きく異なるため、自動車と同じ自動運転システムが使えないというソフト面の課題はありました。しかし当社には国内外のさまざまな技術系企業とのネットワークがあり、この課題も2020年8月にパートナーシップ協定の締結を発表したSafeAI(本社:米国カリフォルニア州、CEO:Bibhrajit
Halder)との提携によって解決することができました。
SafeAIは建機自動化ソフトウェアやドライブバイワイヤ※2なのシステムを開発する企業です。建機自動化において当社に足りなかった技術を持つ同社との提携によって、当社は建機に対するトータルソリューションの提供体制を構築することができたのです。
※1 「自動運転の目」とも呼ばれるコアセンサー。照射したレーザー光が物体に当たって跳ね返ってくるまでの時間を計測することで、物体までの距離や方向を測定する
※2 ステアリングやアクセル・ブレーキペダルなどの動きを、ケーブルの代わりに電気信号で制御するシステムのこと
要望や環境に合わせて解決法を柔軟にシフト
先ほど自動車関連ではOEMやティア1の支援に注力されてきたとおっしゃっていましたが、建機関連においても建機メーカーが主な顧客なのでしょうか?
竹内氏:いいえ、建機メーカーに加えて、建機のエンドユーザーである大手建設会社の案件もあります。その内容の多くは既存の建機を改造して自動化させたいというご要望です。このニーズに応えるため、当社はレトロフィットモジュールとして建機に取り付けることで作業自動化を実現するユニットも開発・提供しています。
そのユニットの装着は機械制御式、電子制御式どちらで行うのですか?
飯村氏:お客様のご要望や現場環境、そして建機の種類によって対処法を変えています。すべての建機・機構が電子制御できるわけではなく、たとえばペダルを操作するというような機械式ででしか制御できない装置もありますので、常に最適な装着法を提案できるようにしています。
自動化の対象となるのはどのような建機でしょうか?
竹内氏:特に限定しているわけではありませんが、たとえば現場内での単純な運搬作業を担うダンプトラックは実現性の面でも、省人化というメリットの大きさにおいても自動化に適しています。整地の締め固めの工程を担うローラーも同様でしょうか。油圧ショベルによる掘削作業などは人間の熟練技が必要になり、それをAIに代替させるには相応の時間とコストが必要なため、現状はハードルが高いかもしれません。だから油圧ショベルに関しては完全自律運転ではなく、遠隔制御など補助的な部分でサポートすることが多いですね。
自動運転の安全確保について教えてください。
飯村氏:従来人間が担っていた運転や安全確認を、完全プログラム化されたシステムが代替することでヒューマンエラー※3をなくし、安全性を高めることができます。それは建機の操縦者はもとより、周りの作業員が事故で負傷するリスクを回避することにつながります。手動運転にくらべて安全性が向上するという点だけをみても、自動運転のメリットは大きいといえるでしょう。
竹内氏:建設現場はプライベートエリアであるため法規面のハードルが低く、自動運転化を進めやすい環境です。これも当社が建設業界を重要なフォーカスエリアであると認識するに至った大きな特徴です。
※3 現在の交通事故原因の約9割がヒューマンエラーという調査データ(米運輸省道路交通安全局[NHTSA]の「The National Motor Vehicle Crash Causation
Survey (NMVCCS)」など)もある
時代に合わせて課題解決法を探る共創・伴走型ビジネス
自動運転化に関するサービス・支援の具体例はありますか?
竹内氏:建機の自律運転はDX(デジタルトランスフォーメーション)における一つの手法となりますが、DXをより包括的に推進支援するため、さまざまな取り組みを加速しています。 たとえば、建機を適切にメンテナンスし、稼働率を向上させる、ダウンタイムなく低減するといったことにも取り組んでおり、建機からのセンサデータなどをリアルタイムにクラウドに集約し、AI処理を行うためのプラットフォームを構築しました。 また、自動運転化の過程で開発が加速したLiDARなどのセンサを活用したエリア監視のユースケースも拡大しています。韓国のSeoul Roboticsとパートナーシップを組み、より簡易的にユーザーがLiDARを活用し、人物、車両、障害物認識のシステムを構築できる環境を整えました。
最後に、自動運転化についての展望について教えてください。
竹内氏:自動化のニーズは企業やプロジェクトによって異なり、必要な技術も異なります。顧客の課題解決のための最適解が自動化ではない場合もあるでしょう。だから自動運転だけを提供するモノ売りにとどまることなく、最適なソリューションを選別・提供し、顧客とともに前進していけるように事業を展開できればと考えています。顧客と「共創、伴走」していくことを理念として掲げる当社にとって、そうした寄り添うような、パートナー的な存在になることが理想です。
飯村氏:自動化はコスト削減の面だけではなく、人材確保の難しさに起因してニーズが高まっています。特にその傾向が顕著な建設業界ではDXへの投資が増加し、自動運転には大きな期待が寄せられています。当社も企業の経営課題とともに、そうした社会課題へのフォーカスを強めてきています。商社でありながら「従業員の3割以上がエンジニア」という少々異色の特徴を持つ技術商社として、当社は市場やお客様の課題解決のための最適なソリューションをスピーディに構築する取り組みを推進し、少子高齢化に伴う労働者人口低下という社会課題の解決に少しでも貢献できればと思っています。
イノベーション戦略事業本部スマートモビリティ事業部 課長の竹内崇道氏
イノベーション戦略事業本部スマートモビリティ事業部 主幹の飯村亮氏